建築士の出来る事は限られている
独立して26年目を迎え、最近は新しくお寺のお仕事も頂くようになってきました。私の様に建築士は図面を描いて、現場を見て竣工しお引き渡しをして仕事が終わります。私は日本建築を主に瓦屋根を多く手掛けています。瓦屋根を採用していると、もっとこんな感じにするとスッキリするのに・・・・とか、化粧垂木の見せ方や化粧材のサイズでもっと印象が変わるのに・・・と考えます。そんなあと少しのことを実現するためには、瓦屋さんや大工さんの経験や知恵が不可欠だと最近痛感しています。そう言う意味で建築士の出来る事に限りがあると感じています。
扇垂木瓦割と垂木の断面形状
現在設計している名古屋市の名古屋別院(西別院)さんは私の事務所が良く採用している寄棟のむくり屋根です。今回屋根を支える垂木は伝統的な扇垂木を採用し軒先の鼻隠しの材を小さくすることにしました。様々な資料を見ても扇垂木の垂木の割付方法が良く分かりませんでした。そこで宮大工の伊藤棟梁に相談し、割付方法を教えて頂きました。
私も1/50の模型で意匠の感じを検討しましたが、伊藤大工は垂木の加工前に1/10の模型を作って、実際の加工に移ってくれました。
以前、住宅設計で有名な堀部安嗣さんのインスタで岡山の住宅で採用された扇垂木は1本1本垂木の断面を変えて作ってもらったと書いてありました。その理由をいつも分からずにいましたが、今回その理屈が分かりました。これはCADが進化したところでそこまで検討してくれるのだろうかと感じるような細かいことでした。
瓦屋根の隅瓦
今回の屋根は寄棟屋根なので、一般的に隅に駒巴が付きます。
こちらが駒巴です。
この駒巴が通常照り(反り)がついてまして、むくり屋根に相反する形状になっています。これがいつも気になっていて今回瓦メーカーに依頼して制作してもらう事になりました。実は以前お願いしていたメーカーは対応いただけなかったので、最近依頼いているメーカーに相談したら快く引き受けていただけました。
先日、特注瓦を作って頂ける職人さんの工場へ行って実際のものを確認してきました。
こちらは職人さんで少し照り(反り)を矯正いただいた試作です。この状態はまだ土が乾燥しただけなので力を加えると変形します。と言う訳で職人さん・メーカーの方・私でいろいろ意見を出し合って再度矯正させました。
それがこちらです。最初より随分と緩やかになり、隣の軒先瓦のカーブとかなり近い感じになりました。
専門分野の知恵と団結力
建築の世界をオーケストラで例えると私は作曲家かと思います。監督さんが指揮者で大工さん・瓦屋さんがバイオリンやビオラなどの各奏者です。皆さんが少しづつ知恵を振り絞ってより良い建築につながると思います。この団結力は目には見えないですが、竣工するときには大きな違いにあるように思います。そして建築士の想いを引き継ごうとしていただける職人さんたちに感謝しかありません。