瓦は本当によくない素材なのか
・瓦の製造過程
今回は宝角建築アトリエで良く使っている、瓦について書いてみたいと思います。私が良く採用しているのは和瓦のいぶし瓦と言います。瓦は土を捏ねて成型し窯で焼きます。なので素材は基本的に土です。いぶし瓦以外に釉薬瓦があります。その違いは簡単で素材となる土も成型・乾燥までは工程は同じで、焼く過程で燻すか釉薬を塗って焼くかの違いです。完成品の違いはいぶし瓦は割れた断面も同じいぶし銀色ですが、釉薬瓦は割れた断面は土色です。あとは釉薬瓦の方が少し艶が出ます。なので性能はどちらも変わりません。
・瓦は重たい
瓦は確かに重たいです。最近の屋根で良く使われるガルバリウム鋼板の屋根とは厚みが全然違うので瓦は重たいです。それは紛れもない事実です。ただ近年の瓦の施工方法は変わっています。
こちらの画像は施工中の瓦屋根です。防水紙の上に木の横桟木を付けてそれに瓦をひっかけて一枚一枚釘打ちで留めていきます。釘打ちの位置ですが、以前は数枚に一枚とか一列に一枚など施工店任せの所がありましたが現在は義務化され以前のように台風などの強風で飛ぶことも少なくなりました。
こちらは昔の瓦屋根です。桟木に釘打ちではなく土を接着剤代わりにして設置していました。
瓦が板金に比べて重たいのは事実ですが、この写真でもわかる通り、瓦が重たい以上に施工的に重たくなる材料であった訳です。なので以前に比べて瓦屋根としての重量は格段に軽くなっています。
・瓦の良いところ
今までは瓦のネガティブなデメリットを書きましたが、良いところも有ると思っています。それは断熱性能だと思います。瓦の素材は最初にも書いた通り土です。そしてそれを重ねながら設置していきます。重ねるときに下地面と少し隙間が自然にできます。ここが自然の通気層になって夏の熱を瓦で和らげて、瓦と下地の隙間でさらに温度を下げて屋根の下地面に伝わります。なので屋根の下側や天井裏に敷き詰める断熱材への負担も軽減されると思っています。さらに断熱材の室内側と室外側での温度差を少なくすることで結露のリスクも軽減できます。板金屋根でも通気層を作って温度を和らげる工法はあるので、この部分では板金屋根が悪いと言う事では決してないです。
・瓦の可能性
瓦は板金屋根と違って切ったり、形を変えたりは出来ません。基本的に瓦の形の連続が屋根の意匠となっていきます。その代わり伝統的な素材なので種類がたくさんあります。
こちらは私が普段採用している瓦です。軒先の垂れ下がりがなくすっきりとしていると思います。また、木の部分(破風)と瓦の間の隙間をスズメ口と言いますが、ここも瓦の材で施工しています。ここの施工は一般的にはプラスチックか漆喰となりますが、瓦材の方が施工性も強度も良いのでこちらを採用しています。このように瓦のセレクトによって軒先の重厚感が少し軽い印象になったのではないでしょうか。
建築はたくさんの素材を重ね合わせて一つの建築になっていきます。「瓦とはこういうものだ」と言う固定観念も、素材や経験や新しい形状との出会いによって可能性は大いに膨らんでいきます。なので私は瓦に大きな可能性を感じています。瓦の可能性を素材としていろんな壁や洗面器などに使う事も斬新ですが、私は屋根材として瓦の可能性を求めていきたいと思っています。