設計事務所として出来る事
・職人さん達との出会い
私は意匠の設計事務所で設計の仕事をしています。独立して25年目を迎えていますが、今までたくさんの工務店とお付き合いしてきました。そしてその現場に携わるたくさんの職人さんにお会いして、たくさん勉強させていただきました。多分これからも指導いただくことと思います。そんな中で感じていたことは、世の中にはこんなにたくさんの技術と知識を持った職人さんが居るということです。しかし、残念ながらそんな職人さん達がその技術と知識を発揮するところが現在ではあまり無いということです。量産型で既製品の設置をこなす現場の大工さんもワンオフでひとつづつ造っていく大工さんも世の中の評価はあまり変わりません。他にも左官屋さんは基礎の巾木を塗る仕事が多く、壁を塗る仕事はほとんどクロスにとって代わられています。
・設計士としての試み
私は名も無き図面屋ですが、もし技術や知識が無いと出来ない大工仕事を設計に取り込めれば・・・。
こちらの画像は、リビングの外部開口部です。天井にカーテンと網戸を隠蔽して機能を残して存在を消すように考えました。画面では表層のすっきりしたことが見て取れると思いますが、実は内部では結構シビアな納まりをしていて、網戸もカーテンもサンプルを用意しもらい現場で図面と刷り合わせながら現場を進めていきました。これがサッシなら図面を描く枚数も、大工さんの手間も大幅に縮小されコストも抑えることは可能です。
こちらは階段室の壁です。格子を図面に書きましたが、大工さんは組子の技法で極力釘を使わない作法で作ってくれました。
私は大工さんの知識と技術と知恵を見せていただきました。
こちらは塗版築壁です。玄関正面のシンボリックになる場所を設計し、左官屋さんにこちらの想いを伝え、「素敵に粋な壁を作ってください」とお願いしました。完成した実際の壁は施主さんも、想像以上の雰囲気が出来たと言っていただきました。ここもクロスなら打合せはなく、出来上がりに感動することもなかったと思います。
・日本の伝統を少しでも
こう言った試みは小さな試みではありますが、日本の職人の技術も、もしかしたら伝統も少しづつ受け継がれていくかもしれません。そしてそう言った仕事に興味を持ってもらえる若い人も増えるかもしれません。今回は大工さん・左官屋さんでしたが、現在設計している建築はもう一段階上のことを大工さんや左官屋さんに相談しながら計画を進めたいと考えています。そして今度は瓦でも新しい試みを考えています。そんな小さな試みを図面屋として出来たらと考えて、それに応えようと頑張っていただける職人さん達の心意気を建築として回答できれば、みんなが幸せになるように思います。
・理想と現実
ただ、すべてを実現しようとするとコストはどんどん上がっていきます。これは設計事務所としての仕事で、プランに無駄をなくしコンパクトな面積にし、扉の枚数も少なくするプランにして、当然寝室や子供室などのプライベートの部屋はクロスやサッシも積極的に取り入れます。プライベートとパブリックなスペースでレベルを変え、道路から見える部分にはしっかりとコストをかけてといったオンとオフの部分を切り分けていくことは必須のように思います。そうしてトータルでの施主さんの満足度を上げていきたいと思います。